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つらさとしんどさとこわさについての映画 僕はこの映画を、まったく何の予備知識もないままで、いきなり観た。頭にあったのは四つ葉のクローバーをくわえて不遜にこちらを睨みつけるヒロインよし子の写った試写状の写真と、まるっきりワケのわからない題名だけだった。監督・横浜聡子の前作『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』も観ていなかった(まだ観ていない)。 とにかく何らイメージの持ちようがないまま、いきなり映画は始まった。なんとも気の抜けた映像と、ぎくしゃくした編集のリズム、棒読みと素を自在に往復する俳優たちの演技、そしてあまりにもトンデモないストーリー展開。何度失笑したことか。その内の何度かは爆笑だったが、しかも全体としてはけっして狙って笑わかそうとしている風ではなく、もしかしたらスゴいマジで作ってたりなんかして、という疑惑さえ生じてきたのだったが、もちろんいわゆる天然ボケではないにしても、こういう絶妙なバランス感は単に計算だけでやれることではないのであって、横浜さんの無意識力も含めた独特なセンスと生まれ持った才能には脱帽させられる。 このセンスと才能はしかも、おそらく良い意味で、たぶん映画という領域のみに留まるものではなく、たとえば本谷有希子や前田司郎の芝居/小説や、たとえば青野春秋『俺はまだ本気出してないだけ』とか後藤友香『正義隊』などといったマンガなんかとも一脈通じ合うような気がする。表現というものは最終的には(根本的には)技術でもコンセプトでもなく、気合いと真心であるのだというひとつの真理を、この新鋭監督は既にして体得している。 今日びの日本映画は、もうおなじ「日本映画」という語で呼んでいいのかどうかわからなくなるほどに激しく二極分離していると思う。それはかんたんにいえば、作品なのか商品なのか、ということかなと思うのだが、たとえば邦画バブルなどという現象は、誰かにとって切実なこととして撮られ観られるものとしての映画=作品にはほぼまったく興味がなく、ただただ映画=商品、すなわち消費される娯楽としてのみ徹底して扱う連中によって駆動されている現象であって、アイドルや人気俳優も出ていなければ(よし子の友達まきを演じる女の子はかなり可愛いけれど)人気ミュージシャンが主題歌を提供しているわけでもない『ジャーマン+雨』は鼻からそれとは無縁だけれど、しかし「邦画バブル」の大ヒット作に、人間の生き死にというものをいかにも深刻そうに、その実なんとも小馬鹿にし切ったナメた態度でドラマ化してるものが多いということを考えると、よし子が汲み取り便所の糞尿溜めの底にいきなり飛び降りてからのこの映画のクライマックスは、そんな卑怯さに一矢報いているとも言える(向こうは屁でもないでしょうが)。 とはいえ、ではこの映画がしっかりやる気満々に映画=作品であろうとしているのかといえば、そっちはそっちで、やはりそうとも思えないというか、監督横浜聡子には「作家」としての良くも悪くも強固な自意識みたいなものはあまり感じられず、自信はあるけど野心はないというか、異様なまでに飄々としている。それでいて、昨今のまるでCMを繋ぎ合わせたみたいな(そして実際にCM出身の監督がやたらと多い)登場人物のキャラ立ちとヘンな会話だけで全編成り立っている「ちょっと奇妙なゆるゆるハートフルコメディー」みたいなのともまったく違っていて、それがつまりはユニークということなのだが、これみよがしにユニークネスを押し付けてこない所にも、とても好感が持てる。つまり『ジャーマン+雨』は、こんなちっぽけなたった一本で、今日びの「日本映画」を丸ごと向こうに廻して闘っているとも言えるし、「日本映画」からまるっきり相手にされていないということを逆手に取って、その存在理由を確固たるものにしているとも言える。 ところで、何を隠そう、僕はこの映画の音楽を担当している「音遊びの会」のコンサートに行ったことがある。まさにユニークと言うしかないこの会のプロフィールについてはたぶんこのパンフのどこかに書いてある筈なので参照してほしいが、プリミティヴではあるがイノセントではなく、アマチュア的ではあるが断じてヘタウマではない彼ら彼女らの演奏が醸し出す、何とも言えない幸福感は、この映画全体に漂う空気そのものでもある。 映画の内容についての感想を書いていなかった。 今、こんなだったらどんなにかいいのになと思っているのに、とりあえずそうではない、いや、とりあえずどころか、どうやらいつまでたっても「こんな」にはなりそうにもないぞとうすうす勘づきかかっているようなとき、そんな「こんな」について考えることは、つらい。 わけのわからない不安と心配に満ちた未来について考えることは、しんどい。 そして、いつか必ずやってくる死について考えることは、こわい。 『ジャーマン+雨』は、かんたんに言うと、そんなつらさとしんどさとこわさについての映画である。 だがそれと同時に、『ジャーマン+雨』は、そんなつらさを撥ね除ける強さと、そんなしんどさを忘れられる愉しさと、そんなこわさに立ち向かう智慧についての映画でもある。
by EX-PO
| 2008-05-18 14:50
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